巻 頭 歌
れんげ
鎮 魂
殺戮に始まる世紀 立ち合ひて罪に首垂る原始の人に
うつろひ
不条理と唱へし者ら勝者に形をつくり擦り寄りてくる
ふきのとう
寒に入り斑(まだら)に残りし雪の間に大地を持ちあぐるふきのとう見ゆ
たゆみなく降りたる雪はおわりなし天も疲れぬ自然の力
冬の原たどりし麓のそば処鉄瓶の湯氣のぼりては消ゆ
雪の原歩きて見あぐ山頂は冬空に消え静けさ残る
冬陽さす魚野川面につれし白鳥翔びて眩しさ残る
くろずみし山の端に沈む赤き陽の残照の空翔ぶ鳶急ぐ
寒暖も日毎に定まる魚沼の雪原狭まり地の草芽吹く
一日と圃場の黒地拡がりぬ盆地の春は暖かさ一気に
季
茫々蒲原平野に生(お)うる緑ショベルの爪は土砂を盛りあぐ
勤め終え帰路の寺々覆いし樹をゆるがす蝉の声に安らぐ
待ちおりし食用菊は華開くグラスに浮かす一輪の黄
蒼空に採り残される柿の実は秋の足跡朱色にみせて
落葉焚く盆地の寺庭空澄みて煙一すじ天に吸われゆく
アスファルト渦巻き走る路の雪寒さの貌(すがた)まばたきの間に
薄日さす玻璃戸透してやわやわと足音もなく春の来ており
雪を割り僅かの黒土に蕾出し黄色の生命(いのち)福寿草咲く
彩り
沈鬱に夜景眺める頬でる風の囁き悲しみ太る
薄闇に蜩の声澄みとおる障子の白み自然に消える
山路の熟れたるトマトにまといつく蝸牛の跡実は裂かれいく
ごうごうと名のりをあげる颱風に競うが如く秋虫は鳴く
二度三度台風過ぎし曇天の秋葉の丘にコスモス揺れる
積りたる黄葉は舞いて風吹けば彩りうつり土となりゆく
幾重なる雲のはざまのおぼろ陽は風の指図に貌を消し去る
寝そびれて脳裡に馳せし想念の太りゆくだけ明日が細る
白 鳥
餌を食める鴨の勢ひみなぎりて湖面駆くれば白鳥の消ゆ
餌づけどき湖面揺るがせ鴨集ふ背に鴨戴す白鳥もゐて
空をゆく白鳥見つつ感激のかすかとなれるわれに氣づきぬ
靄かかる五頭連峰をうしろにし湖のみぎはに鴨ら連なる
白鳥の姿求めて訪ぬれば餌をあさる逞しき鴨ばかりなり
人なつこき鴨の大群見終りて鴨汁啜り帰らんとする
玄関に長靴を脱ぐしばし間わが酔ひざまを寒月照らす
しろじろと雪を纏へる裸木の枝の隙間に月冴えわたる
温かき骨
わが妻の父の柩はローラーの上をすべりて爐に吸はれゆく
温かき骨をあつめし義姉と甥量をめぐりてしばし争ふ
亡き父のために朝々心経を唱ふる妻の声に目覚むる
われの親妻の親みなすでに亡く己にせまる老いを思ひき
父逝きて言葉の荒くなりし妻その悲しみの癒やされぬらし
義兄死して葬儀に集ふ兄姉ら互ひの老のかく深まりて
わが姉は夫の通夜の挨拶に辛うじて立つ支へられつつ
法要を終へて戻りて行きしかど老いし兄姉次は揃ふや
夕つ日
白みゆく障子へだてて蝦蟇が啼く腹に響きてふたたび眠る
酔ふ人ら連なり歩む駅通り若き女の易者うつむく
腰屈め墓石を洗ふ妻を見し建立厭ひしもとほき日となる
つらなりて枯れし稲株茫々と越後平野に夕つ日沈む
夕闇に川の流れはつつまれて岸の矢板に水音響く
明けてゆく空の冷気をふるはせて白鳥啼けりわれの目覚めに
患者衣を纏ひて外を眺めゐる若き女に性の香のなし
採尿の人ら廊下に群るるなか若き女ゐて華やぐ朝
鶴
ヒマラヤを越えゆく鶴は強風に挫けず高く傘形に翔ぶ
雪塊は橋脚打ちて砕かれて川面埋めつつ流れゆくなり
庭木々を覆へる雪に冬の陽の照りて雫の音しきりなり
朝晩人ら犇くホームなれど気怠さ漂ふ昼すぎの刻
図書館に日毎通へる道すがらわれの建てたる墓に立寄る
朝刊の訃報の欄にわれよりも若き人あり働きすぎか
塵置場に捨てられし雑誌丹念に集めてリヤカーの媼去りゆく
驟 雨
雪代の溢れつつゆく魚野川の川音高し昨日も今日も
新築の家に埋められん浄化槽日照りの道に転がりてゐる
川の面のやや騒だつは鯔の群のぼり来るらし炎暑の夕べ
驟雨来て仕舞ふ暇なく吊るされし露店の衣類雫垂れをり
乗合ひし車内の人らわが見つつ老いゆくまでの階段を知る
診察を受け来しわれは夕街のジングルベルを聞きつつ帰る
内臓の病と齢の関りをこの医師説けば諾ひて聞く
パンツルック
襤褸まとひ臍出し歩む若きらは街に溶けゆきファッション奮ふ
冬日和一列なして媼らはシルバーカー押し黙しゆくなり
人採らず鳥も啄ばまぬ柿の実は自と墜ちる原形崩し
若き日に想ひし君は歳古りつ式の出会ひを悔ひつつ帰る
灯り消し漆黒の部屋幽けらしリズムを刻む雪解の雫
遊歩道前後をなして妻とゆく冬陽射しきて影重りつ
ブッシュ氏の一国主義に異を唱へ市民は集ふイラクの盾に
赤子時の吾を背負ひし姉逝きて骨壷温し河底の道
厚底の靴の人絶え若きらのパンツルックは艶やかにして